[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
京
数ヶ月前の件が尾を引き、まだ気持ちの整理がつかない。兄弟――いや双子のように育った親友、烏丸悠士の変化に気づけなかったことを悔やむ。
時間が経てば、薄れると思っていた。
怒りも、失望も、やるせなさも。
だが実際には逆だった。日常が戻るほど、彼の不在だけがくっきりと輪郭を持つ。
業務が平常に戻り、笑顔が増え、会議が滞りなく進むほど、そこにいるはずの男の影だけが抜け落ちていることを思い知らされる。
俺たちは旧華族ゆかりの五家(大家族と呼んでいる)で育った七人組だ。学校へ通い始めると、『慶智の王子たち』と呼ばれ注目を集めた。医者、弁護士、実業家なんて肩書もその理由の一つなんだろうが。
表の顔は違えど、弱い者を守るという暗黙のルールで結ばれてきた。
幼い頃の記憶がある。
誰か一人が叱られると、理由に関わらず全員が連帯責任だった。実家の長い廊下――磨き上げられた木目の続くその場所を、俺たちは並んで雑巾がけをさせられたもんだ。
祖父たちは無言で見下ろし、言い訳も反論も許されない。
気づけば、いつも俺が前に立っていた。
悠士は何も言わず、俺の背中を支える位置にいた。
息の上がり方も、手の動かし方も、いつの間にか揃っている。誰が悪かったのかなど、もうどうでもいい。
七人で同じ場所に立ち、同じ罰を受ける。それが俺たちの日常であり、絆。守る側と守られる側、その境界を意識したことは一度もない。
保守派ではない。
俺たちのモットーは抑強扶弱。
だが恋人や家族を傷つけた相手には容赦しない。それが『裏の顔』。
守るという行為は、時に裁くことと背中合わせだ。線を引くのは難しい。どこまでが介入で、どこからが越権なのか。
その一線を、悠士は踏み越えた。
いや、そうせざるを得なかったのかもしれない。そう考えてしまう自分が、いまだにいる。
今回、悠士は弟・大和と恋人の圭衣ちゃんの間に起きた出来事に、独断で介入した。
結果として、彼女を追い詰めてしまった。
モットーに反した行動の責をとり、悠士は本社を離れて新潟の研究所へ。寺で再修行中だ。
大家族の許可を得て、俺はいずれ戻すつもりだが、今は父親である烏丸玄士叔父さんが副社長代行を務めている。
業務は通常に戻った。
だが俺の胸の空洞は埋まらない。
なぜ相談しなかった?
俺はそんなに頼りにならなかったのか?
問いは、答えを求めるためのものではなく、ただ胸の傷をえぐるためだけに繰り返される。考えるほど、静かに深く沈んでいく。
喪失感に耐えきれず、グラスをあおった。
時間が経てば、薄れると思っていた。
怒りも、失望も、やるせなさも。
だが実際には逆だった。日常が戻るほど、彼の不在だけがくっきりと輪郭を持つ。
業務が平常に戻り、笑顔が増え、会議が滞りなく進むほど、そこにいるはずの男の影だけが抜け落ちていることを思い知らされる。
俺たちは旧華族ゆかりの五家(大家族と呼んでいる)で育った七人組だ。学校へ通い始めると、『慶智の王子たち』と呼ばれ注目を集めた。医者、弁護士、実業家なんて肩書もその理由の一つなんだろうが。
表の顔は違えど、弱い者を守るという暗黙のルールで結ばれてきた。
幼い頃の記憶がある。
誰か一人が叱られると、理由に関わらず全員が連帯責任だった。実家の長い廊下――磨き上げられた木目の続くその場所を、俺たちは並んで雑巾がけをさせられたもんだ。
祖父たちは無言で見下ろし、言い訳も反論も許されない。
気づけば、いつも俺が前に立っていた。
悠士は何も言わず、俺の背中を支える位置にいた。
息の上がり方も、手の動かし方も、いつの間にか揃っている。誰が悪かったのかなど、もうどうでもいい。
七人で同じ場所に立ち、同じ罰を受ける。それが俺たちの日常であり、絆。守る側と守られる側、その境界を意識したことは一度もない。
保守派ではない。
俺たちのモットーは抑強扶弱。
だが恋人や家族を傷つけた相手には容赦しない。それが『裏の顔』。
守るという行為は、時に裁くことと背中合わせだ。線を引くのは難しい。どこまでが介入で、どこからが越権なのか。
その一線を、悠士は踏み越えた。
いや、そうせざるを得なかったのかもしれない。そう考えてしまう自分が、いまだにいる。
今回、悠士は弟・大和と恋人の圭衣ちゃんの間に起きた出来事に、独断で介入した。
結果として、彼女を追い詰めてしまった。
モットーに反した行動の責をとり、悠士は本社を離れて新潟の研究所へ。寺で再修行中だ。
大家族の許可を得て、俺はいずれ戻すつもりだが、今は父親である烏丸玄士叔父さんが副社長代行を務めている。
業務は通常に戻った。
だが俺の胸の空洞は埋まらない。
なぜ相談しなかった?
俺はそんなに頼りにならなかったのか?
問いは、答えを求めるためのものではなく、ただ胸の傷をえぐるためだけに繰り返される。考えるほど、静かに深く沈んでいく。
喪失感に耐えきれず、グラスをあおった。