[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜
力のある人たちの判断は、いつも正しい顔をしている。その裏で、声を消された人を、私は何度も見てきた。
研二のときも、そうだった。
彼の言葉のほうが、
彼の立場のほうが、
いつも正しいことにされた。
私は間違っていなくても、説明する側に回されて、最後には黙るしかなかった。
……ああ。
これが、彼らのやり方なのか。
彼の背後には、同じ立場の人たちがいて、
同じ視線で私を見る人がいる。誰が正しくて、どう処理するのが最善か。それを決める力を、彼らは持っている。そして私は、その判断の対象でしかなかった。
私は、ゆっくりと息を吸った。
「……この子は、私の子です」
声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「あなたたちに、何かを求めているわけじゃありません」
言葉を選び、はっきりと続ける。
「だから……放っておいてください」
そう言って立ち上がった瞬間、視界がわずかに揺れた。彼が、とっさに支えようとして手を伸ばす。私は反射的に、その手を払いのけた。
叩いたわけじゃない。
ただ、触れられたくなかっただけ。
本当は、叫びたかった。
あなたに出会わなければよかった。あの夜がなければ、こんな場所に立たずに済んだのに。
けれど、その言葉は口にしなかった。それを言った瞬間、私はきっと、説明する側にされてしまう。
もう、そういう関係じゃない。
「……もう、来ないで」
それだけ言い残して、背を向けた。
これ以上ここにいたら、私の尊厳も、覚悟も、全部壊されてしまう。
そう思った次の瞬間には、身体が勝手に、出口へ向かっていた。
ドアが、音もなく閉まった。
喉の奥が熱くなったが、私は顔を上げた。
ここで泣いたら、負けだ。一度、深く息を吸って吐く。それから、重い身体を引きずるようにして歩き出す。
廊下は静かだった。一歩、踏み出すたび、足音が厚いカーペットに吸い込まれ、足元の感覚まで奪われていく。
エレベーターホールが見えたところで、
無意識に歩みが緩んだ。
清掃用のカートが、通路を塞ぐように置かれている。その向こう、エレベータードアの前に、清掃服の男性がひとり立っていた。キャップを深くかぶり、顔は影になって見えない。
――こんな時間に?
胸の奥が、ひくりと反応する。けれど、引き返す理由はない。そう言い聞かせて、私は前に進んだ。
「ご苦労様です」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
清掃カートを避けるように、腰をひねり、左手を伸ばす。エレベーターのボタンに触れようとした、その瞬間。
がっと、手首を掴まれた。
「……っ!」
声が、喉の奥で潰れる。
研二のときも、そうだった。
彼の言葉のほうが、
彼の立場のほうが、
いつも正しいことにされた。
私は間違っていなくても、説明する側に回されて、最後には黙るしかなかった。
……ああ。
これが、彼らのやり方なのか。
彼の背後には、同じ立場の人たちがいて、
同じ視線で私を見る人がいる。誰が正しくて、どう処理するのが最善か。それを決める力を、彼らは持っている。そして私は、その判断の対象でしかなかった。
私は、ゆっくりと息を吸った。
「……この子は、私の子です」
声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
「あなたたちに、何かを求めているわけじゃありません」
言葉を選び、はっきりと続ける。
「だから……放っておいてください」
そう言って立ち上がった瞬間、視界がわずかに揺れた。彼が、とっさに支えようとして手を伸ばす。私は反射的に、その手を払いのけた。
叩いたわけじゃない。
ただ、触れられたくなかっただけ。
本当は、叫びたかった。
あなたに出会わなければよかった。あの夜がなければ、こんな場所に立たずに済んだのに。
けれど、その言葉は口にしなかった。それを言った瞬間、私はきっと、説明する側にされてしまう。
もう、そういう関係じゃない。
「……もう、来ないで」
それだけ言い残して、背を向けた。
これ以上ここにいたら、私の尊厳も、覚悟も、全部壊されてしまう。
そう思った次の瞬間には、身体が勝手に、出口へ向かっていた。
ドアが、音もなく閉まった。
喉の奥が熱くなったが、私は顔を上げた。
ここで泣いたら、負けだ。一度、深く息を吸って吐く。それから、重い身体を引きずるようにして歩き出す。
廊下は静かだった。一歩、踏み出すたび、足音が厚いカーペットに吸い込まれ、足元の感覚まで奪われていく。
エレベーターホールが見えたところで、
無意識に歩みが緩んだ。
清掃用のカートが、通路を塞ぐように置かれている。その向こう、エレベータードアの前に、清掃服の男性がひとり立っていた。キャップを深くかぶり、顔は影になって見えない。
――こんな時間に?
胸の奥が、ひくりと反応する。けれど、引き返す理由はない。そう言い聞かせて、私は前に進んだ。
「ご苦労様です」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
清掃カートを避けるように、腰をひねり、左手を伸ばす。エレベーターのボタンに触れようとした、その瞬間。
がっと、手首を掴まれた。
「……っ!」
声が、喉の奥で潰れる。