[慶智の王子・西園寺京の物語]ラブストーリーは一夜の過ちから始まる〜アラフォー男と三十路女の拗らせ恋愛〜

京サイド

目の前に座る小宮真帆子。

俯き、肩をすぼめて小さくなっている姿は、ひどく心細そうに見えた。無理もない。ここには俺だけじゃない。弁護士の涼介と、弟の雅もいる。彼女にしてみれば、事情も分からないまま呼び出され、気づけば敵陣に座らされている。そんな感覚だろう。



まず、謝った。だが彼女は、何も答えなかった。その沈黙が、答えだった。もちろん、簡単に許されるとは思っていない。けれど、言葉すら返ってこない現実を、受け止めるしかなかった。

それだけ俺は、彼女を傷つけた。

……落ち込んでいる場合じゃない。

彼女と、そして俺たちの子どもの未来がかかっている。

だから、単刀直入に切り出した。

「君は妊娠しているんだろう?」

一瞬、彼女の肩が揺れた。

「もし俺の子だった場合の話だが……子どものためにも、籍を入れるべきだと思っている」

言葉を選んだつもりだった。

「……DNA鑑定の結果を見てからだが」

しかし、口にした瞬間に分かった。
間違えた、と。




彼女の顔から血の気が引き、瞳の光が、すっと消えた。

悲しみ。
怒り。
拒絶。

それらが一瞬で混ざり合ったのが、はっきりと分かった。

場の空気が張り詰める。涼介も、雅も、それを感じ取ったようだった。

「誤解しないでほしい」

雅が、言葉を挟む。

「ただ……婚約破棄の直後だったと聞いていて」

だが彼女の震える肩を見て、これ以上追い詰めるつもりはなかったはずなのに、俺は、さらに言葉を重ねてしまう。

「DNAテストは、彰人のところで――」

言い終わる前に、彼女の声が弾けた。

「……この子は、私の子です」

その声は、震えていなかった。

「あなたたちに、何かを求めているわけじゃありません」

一呼吸置いて、はっきりと。

「だから……放っておいてください」

彼女が立ち上がった瞬間、心臓に強い一撃を喰らった。

――まずい。

ふらついた身体を支えようとして、反射的に手を伸ばす。

だが、その手は、容赦なく払われた。叩かれたわけじゃない。怒鳴られたわけでもない。

ただ、触れる資格がない。
そう線を引かれただけだった。



言葉を探したが、何も出てこない。説得する権利も、引き留める資格も、もう俺には残っていなかった。

彼女は一度だけ、こちらを振り返った。

「……もう、」

静かな声だった。

「来ないで」

その一言で、頭の中の何かが、音を立てて崩れた。

判断する余地。
責任を取るという立場。
父親かもしれないという可能性。
守る側に立つ資格。

全部、否定されたわけじゃない。最初から与えられていなかったみたいな顔で、切り捨てられた。

そうじゃない。
俺は、選ばれなかったんじゃない。

――降ろされたんだ。

それも、静かに。議論の余地も、反論の余地もない形で。

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