叶わぬ彼との1年先の縁結び

ep.1 はじまりは大凶から

『神様、どうか経営危機を回避する具体的な案が舞い降りてきますように』

ついに私は神頼みにすがりついた。

実家の『料亭 月名(つきな)』が経営困難に陥ってから早1年。経営状態はもはや風前の灯だった。

大学を卒業して実家に就職してからもうすぐ丸2年になる。
 
私が学生の頃、この業界自体の業績が悪化していた。それでもウチはまだ何とか持ち堪えていた方で、それに両親からもウチに就職して欲しいと頼まれて進路を決めた。

『どうか従業員の人たちの雇用をお守り下さい。そして実家の負担にならぬよう、私は別の仕事を探します。どうか良き転職先が見つかりますように』

2月も半ばを過ぎた頃、私は仕事運の向上を願い、参りそびれていた初詣に来ていた。

大学卒業を控え、別の業界に就職を決めていた妹の六花(りっか)から、
『お姉ちゃん、行くならこの神社がオススメだよ』

スマホでホームページを見せられたのがこちらだった。

「……だ、大凶……う、嘘でしょう」

開いたおみくじには「大凶」の文字が書かれていて一瞬目を疑った。

いや、でもたしかに現在の状況はどん底。あとは上がるしかない。それに大凶の後に大吉が出るというのはよく聞く話なので……

再び箱に百円玉を入れておみくじ箱を振る。

「ま、また……えっ、まさかこの箱、大凶しか入ってないのでは?」

動揺しつつもまだ余裕があった。だが…

「……私、呪われてるのかしら…」

3枚の「大凶」を並べて持つ手がわなわなと震えた。

「……こ、これが最後だから…」

バッグから小銭入れを出すと、手が震えていたはずみで逆さまになってしまい、ジャラジャラと小銭が落ちる音がした。

「わぁっ!」

この状況、まさにおみくじの結果を表している。
繁忙期が過ぎているとは言え、妹が推してきたほどの評判の神社だ。それなりに参拝客はいる。

「すっ……すみません!」

恥ずかしいが後ろを振り向き、顔も見ないまま、謝りながら小銭を拾っていると、

「ほら」

深みと微かに大人の色気がある声に呼びかけられた。

顔を上げると、甘さとシャープさが程よいバランスのクールな表情を浮かべた、私より少し年上に見える黒髪の男性が、拾い上げた小銭をすっと差し出してくれた。

「あっ、ありがとうございます」

拾ってくれた小銭を受け取り、慌ててお礼を言った。そして、

「1人で何度も引いてしまってすみませんでした。3回も連続で大凶が出たもので…」

待たせてしまったお詫びも一緒に伝えると、

「……ここは大凶がよく出ると評判らしいよ。でも3回連続はすごいな……俺も初めて見た」

その素敵な人はなかば感心したように驚いた顔を見せた。

「俺にも、今の状況ならいっそ大凶が出てほしいくらいだ。あとは上がるだけだから……」

何だか切ない様子で、さっき私が思っていたのと同じことを口にしていた。
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