叶わぬ彼との1年先の縁結び
「うわっ、大吉だ……」

「わぁ、おめでとうございます」

申し訳なさそうに横目で見ないでいただきたい。
でも涼やかで端正な顔に、そんな表情が浮かぶのもまた素敵だった。
 
……4回目を引けていたら大吉だったんだぁ。なんて考えていると、

「その3枚、向こうの納め所に結びに行くか?」 

気まずそうにしながらも、身長158センチの私では届かない、高い所へおみくじを結んでくれた。

「……さゆきー」

すると向こうから突然、聞き覚えのない軽快な若い声が聞こえて、

「はっ、はい!」

思わず返事をしてしまった。

「「えっ!?」」

目の前の素敵な人と、軽快な声の人、両名が驚いた風に私を見る。

「あっ、すみませんっ。つい自分の名前を呼ばれたのかと……”紗雪(さゆき)”と聞こえたもので…」

「あっ、さゆきちゃんって言うんだ! なるほどーそんな気にしないでいいよ〜」

軽快な人は爽やかな笑顔を振りまきながら明るい声でフォローしてくれた。

「しっかし、雅之(まさゆき)。お前、就業中に女の子と…」

「人聞きの悪い言い方をするな。おみくじを結んでただけだ」

この素敵な人は”まさゆき”さんという名前のようだ。私の名前に1文字足しただけの相似っぷりだった。


「僕たちはCLツーリストサービスの社員なんだ。今は昼休み中で。食事の後、僕はコンビニへ」

軽快な人は「雨宮夕真(あめみやゆうま)」と名乗った。
CLツーリストサービスは誰もが知る大手旅行会社だ。

「俺はコイツから初詣に行ってこいと言われた」

素敵な人は「三雲雅之(みくもまさゆき)」さんと言い、本社ビルがこの近くにあるので昼食のついでにこちらへ寄ったらしい。

「そうなんですね。私は月名紗雪と言います。私も今日は出遅れた初詣と、仕事運向上の祈願に……」

人見知りゆえにためらいがちな話し方になってしまう。
これでよく料亭の仕事ができるなと自分でも思うけど、ある意味仕事だと割り切ればどうにかなるものだ。

「仕事運? 就職活動中なの? それとも転職? 職場で何かツラいことがあったの?」

雨宮さん、心配そうにしてくれるけど、質問のスピードについていけないです。

「お前……彼女が驚いてるだろう? 一気に質問するなよ」

三雲さんは雨宮さんをたしなめると、ふと私の様子を伺うように聞いてきた。

「いや……でも参拝中、後ろからでも圧を感じるほどだった。深刻な悩みがあるのか?」
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