叶わぬ彼との1年先の縁結び
「私はねぇ、どうにもこうにも疑い深くてね。でも昔は違っていて、人を見る目がなかった……苦々しい経験をして後からこうなったのさ」

お義父様はしみじみと話していたけど、「苦々しい経験」の時だけ目の色が変わった様に見えた。

「だから妻と職場で出会った時には運命を感じたよ。彼女は人を見る目があったから、上手いことトラブルを回避していたねぇ」

うふふっと夫人が微笑む。

「お義母様は、お義父様の会社で働かれていたのですね!」

思わず自我が出てしまった……
大人しく、なるべく黙っていようと企んでいたのに。つい興味が湧いてしまったせいだ。

「そうなのよ。意外でしょ? でもね、年齢は私の方が若いけれど、彼より私の方が結構先輩なのよ。夫は中途入社だったの」

「父はね、大学を卒業した後はホテルに入社していたんだ。ホテルの仕事が大好きだったとよく話していたよ。」

思わず、聞き入ってしまう。

「跡を継ぐためにホテルを辞めて、我が社に中途入社した。もちろん我が社を愛してるよ。しかしホテル経営を諦めきれなくてね。一昨年の宿泊施設サービス部の立ち上げでついに悲願達成が叶ったよ」

お義父様はこちらに穏やかな表情を向けた。

「紗雪さん、今度の商談では、君のご両親に私の熱い思いを聞いてもらうよ。商談の後にはぜひ皆で会食をしよう。商談結果は関係ないよ。せっかく親戚になるのだからね」

「はい、ありがとうございます」

「店は俺が手配しますから」

今度の商談には社長も出てくるとは……
もしかしたら、うちの両親との顔合わせを兼ねているのだけなのかもしれないけど。

この後も、和やかに仕事の話が続いた。
私も店の話を聞かれて、つい色々と話してしまったけど、我が家の商売下手が露呈しただけのような気が……しないでもなかった。

「いやぁ、雅之が紗雪さんのような素敵なお嬢さんと婚約してくれて本当に嬉しいよ」

「本当にそうだわ!」

「いえ、そんな……」

お義父様は満面の笑みでニッコニコだけど、本来そのセリフはこちらのもので、「雅之さんのような素敵な息子さんと……」になるのが正しい。

「雅之、紗雪さんを大事にするんだぞ」

「はい」

そう答える三雲さんはとても真摯な顔をしていた。

(嘘なのに……なんでそんな本当みたいな顔をしてるの?)

──1年後、私たちはどうなってるんだろう?

初めて2人の事として意識した。
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