暁に星の花を束ねて
佐竹はゆっくりと立ち上がり、そのまま静かに歩み寄る。

「他人の首から下だけで帳簿を埋めるやり口は、少名彦隼人の得意技だった。……おれもその帳簿の一行に名を連ねたことがある。『フィールドテストの誤差』として、命を切り捨てられた側のな」

その一言に、会議卓の端で控えていた朝倉楓がわずかに息を呑んだ。

長い睫毛が微かに震え、視線が佐竹の背に吸い寄せられる。

唇がかすかに動くも声にはならない。
ただその沈黙だけが、過去の記憶を呼び起こしていた。

その瞬間、凛翔の頬から血の気が引いた。
表情は崩れぬまま、握った拳が音もなく震える。

冷たく張り付いていた笑みは、ひび割れた陶磁のように静かに崩れていく。

目の奥で何かが壊れ、沈む音だけが響いた。

「親子揃ってその趣味に耽るなら、一度くらい御自分の首の値段を弾いてみたらどうです?」

言葉はもはや鋼の刃のごとく鋭利で、無駄な感情など一切不要だと告げるかのように冷ややかだった。

「そして世界を腐らせて、最後にはその腐敗の利権まで握るつもりというわけですか」

言葉を失う凛翔に佐竹はさらに歩み寄り、静かに言葉を突きつけた。



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