暁に星の花を束ねて

決裂

交渉は決裂した。

その日の午後、スクナヒコナテクノロジーズの本社ビルは、不自然な静寂に包まれていた。

戦略部門の一角。
複数の端末に囲まれた情報分析課では、会議の録画映像が非公式に再生されていた。

「……PROJECT REVIVE……?」

片岡一真が眉を動かす。

「あれって、ただのエコ支援プロジェクトじゃなかったんですか」

若手社員のひとりが顔を強張らせる。
画面には《カオス・カリクス・インフィニタム》の映像。

赤黒い花弁、金属光沢を帯びた種核。

そこから漂う霧は、まるで命を持つように脈動し、発光していた。

「ナノ毒の再設計だ。しかも、あれは……制御できる類の代物じゃない」

片岡が小さく呟いたその時──
戦略部門の通信回線に、佐竹蓮の声が入った。

『──プロジェクトは中止だ。対象すべてを死滅域として再指定しろ』

その一言で、空気が変わった。
冗談も皮肉も封じられた部屋に、鋼の緊張が走る。

片岡は数秒だけ沈黙し、端末のデータウィンドウを切り替えながら、静かに言った。

「……了解しました。死滅域再指定、影班に通達を。BEHとの連携は一時凍結、アクセス権は私の裁量で制限します」

そして、背後の若手たちに目を向けた。

「ここから先は、覚悟が要るぞ。これは環境保全の話じゃない。生存戦略だ」

誰も返事をしなかった。

その代わりに、複数の端末に新たな指令が走り、映像は静かにノイズを帯びて消えた。



< 103 / 195 >

この作品をシェア

pagetop