暁に星の花を束ねて
沈黙の残響

影を継ぐ者

「凛翔さまは王になりたいだけの少年、ですね……」

ふたりきりになった《碧鱗の間》。
朝倉楓が、ゆっくりと言葉を切り出した。

会議の熱気だけがまだ室内に残っており、空調の止まった空間には、誰もいないはずなのに、息苦しさだけが漂っていた。

「それも空っぽの玉座に恋をしたまま。そこに座る手順すら知らないまま、ただ焦がれているように見えました」

その声には呆れとも、哀れみともつかぬ感情が滲んでいた。

佐竹は何も云わなかった。
だが、否定もしなかった。

「……浅はかだ」

静かに口を開いた彼の声は低く冷えていた。

「選ばれることしか考えていない。自分の足で立つ意志が、どこにも感じられなかった」

楓のまぶたが、わずかに伏せられた。

「わかっておりました。あの目を見たときから」

目を閉じるでもなく、遠くを見つめるような表情で続ける。

「凛翔さまはご自分が誰かの道具になっても構わないと、そう思っておられるのでしょう。権威という名の殻に自分の命を詰め込めば、それで充分だと」

佐竹は目を細め云いかけて、息をのんだ。

「……それは」
「夫が亡くなる前、最後に私に向けた目と同じでした」

室内の空気が、微かに震えた。

朝倉楓の夫はかつての戦略部門部長。

佐竹の前任者であり上司だった。

その死は「事故」として処理され、真相は今も社内の深部に沈んでいる。

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