暁に星の花を束ねて
短い沈黙が落ち、時計の秒針の音が妙に耳についた。

「……佐竹部長。あなたは、すでにご存じのこととは思いますが」

楓の声音には押し殺したものが混じっていた。

「あの頃、彼はGQTと接触しておりました。表向きは共同案件でしたが実際には、あの連中の思想に呑まれていたのです。人類の再設計、適者の選別、進化という名の剪定。聞き覚えのある言葉でしょう」

そこで言葉が途切れる。

「私は信じておりました、あの目を。夢を語る人間の目でしたから。でも気づいたときには、その夢は他人の脚本にすり替えられていた。……彼が、自分の意志で死地に向かったのか、それすらもう、私には分かりません」

楓はテーブルに両手を置き佐竹をまっすぐに見た。

「だから私は凛翔さんの目を信じません。あれはご自分の目ではない。誰かの光をただ反射しているだけです。暁烏氏の、あるいはその先にいる、もっと深い闇の」

佐竹は椅子の背にもたれ、ゆっくりと頷いた。

「同じ目を何度も見てきた。道具になることに迷いを持たない人間の目を」

その声には、わずかな疲労と怒りが混じっていた。

「だが道具には二つある。使われる道具と、壊される道具だ。どちらになるかは連中の気分次第だ」

 楓は小さく息を吐き鞄からひとつのデータパッドを取り出した。

「……渡しておきたい資料があります。あんなことは、もう二度と繰り返すべきではありません」

静かにテーブルに置かれたその端末を、佐竹が見つめる。

光の落ちた会議室の中。
過去の記録がいま再び、音もなく戦いを呼び起こそうとしていた。


< 105 / 197 >

この作品をシェア

pagetop