暁に星の花を束ねて

支配者の矜持


静けさだけが支配する空間で、スクリーンに映るのは『碧鱗の間』での交渉映像だった。

琥珀色の瞳を光らせる暁烏真澄。
黒手袋越しに冷ややかな言葉を放つ佐竹蓮。

そして、張りつめた声で理想を叫ぶ凛翔の姿。
そこには激情が隠しきれず滲んでいる。

映像が再生されるたびに、室内の温度が一段ずつ下がっていくような錯覚があった。

隼人は黙ってその画面を見つめている。
いや、確認していただけというのが正解だろう。
この結末はすでに分かっていたのだ。

「決裂か。そうだろう、当然だ」

低く呟き背もたれに身を預ける。

「凛翔があの暁烏に肩を貸している時点で、勝負はついていた。……所詮、カグツチの傀儡にすぎん」

モニターに映る息子の顔が怒気を込めて歪む。
その姿に、隼人はふっと鼻で笑った。

「若い頃の自分を見ているようだ」

皮肉と侮蔑の均衡が取れた声だった。

「だが……私ほどの思慮や冷静さもない」

彼は再び画面へと視線を戻す。

「佐竹。おまえは正しい」

本音だった。
だがその後に続く言葉には、冷徹な支配者の矜持が戻っていた。

「ただ……口がすべるようになったな。誰が犠牲になるかを問うているようでは、先導者の器とはいえない」

背後で控えていた秘書が、そっと一歩前へ出た。

「ご指示を」

隼人は応じた。
振り向きもせずに。

「……息子には、しばらく静養でも勧めてやれ」

そしてひとつ、長い息を吐く。

「私はまだ引退するつもりはないのでね」

一拍の間を空け、目を細めて言葉を継ぐ。

「CEOの椅子に座るというのはな……脅かす者を、消す覚悟と同義なんだ」

それは呟きに近かったが、鋼の重みを持っていた。

「部長の椅子でいい、佐竹。おまえには、そのほうがよく似合っている」

その声音には冷笑も哀感もなく、ただ一人の老戦士としての乾いた実感だけがあった。


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