暁に星の花を束ねて
ガラス越しのばか
(あー、やっぱり。温室にいた……)
葵は思わずため息をついた。
ガラス越しに見える温室の一角。
そこにはいつの間にか持ち込まれた小さなテーブルと椅子。
そしてその中央で端末に向かって淡々と指を走らせている佐竹蓮の姿があった。
(ケガのこと、本当なのかな)
そんなことを一切感じさせない無表情、そして端末を叩く指。
それが余計に不安を煽る。
温室ではいつもの最先端端末ではなく使い古された古い端末を使用しており、置きっぱなしで帰る時もある。
(あの人、いつからあそこが定位置になったんだろう)
すっかり日常になってしまった光景に、葵は胸に手を当ててため息をついた。
(よーし。今日は見てやろ)
結衣にそそのかされたわけでもないのに、どこかいたずら心が芽生えた葵。
温室の自動ドアが開く音も立てず、そろりと近づく。
「なに見てるんですか?」
佐竹の背後からそっと覗き込む。
びっしりと並ぶ数式。
見たこともない英語の略語。
そして、モノクロの花の断面図。
「ひぇぇっ」
思わず変な声が漏れた。
その拍子に、葵はつい口をついて出してしまった。
画面の光が、彼の横顔を照らす。
その手元。
右の袖口の奥に、わずかな包帯の白がのぞいた。
葵は息をのむ。