暁に星の花を束ねて
「……あの、ケガは大丈夫なんですか?」

佐竹の指が一瞬だけ止まる。

「誰に聞いた?」
「噂です」

葵は視線を落としながら正直に答える。

「噂などあてにするな」

低く、断ち切るような声。

その声音に葵は胸の奥がちくりと痛んだ。

(……でも、気になるもん……)

沈黙を埋めるように、葵はぽつりと口を開いた。

「……商談、おつかれさまでした」
「……ああ」

佐竹はわずかに視線を上げたが、表情は変わらない。
だがその短い返答の奥に、どこか疲労の影が滲んでいた。

(やっぱり無理してるのかな)

葵はそう思いながらも、何も云えなかった。

そのまま視線を滑らせていった先で、ふと葵はある違和感に気づく。

──図の中央部、花弁でも葉脈でもない空間。

ぽっかりと、そこだけが白抜きになっていた。まるでそこに何かがあることを示すかのようだ。

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