暁に星の花を束ねて
深呼吸を一度。
いや、二度繰り返してから息を大きく吸った。

そして吐き出す─。

「佐竹さんの、ばーかっ! 」

温室の天井まで突き抜ける声。

「ばかばかばかっ! ばかぁ〜〜っ!!」

声が天井まで突き抜け、ガラス壁を震わせる。

次の瞬間。
音が消えた。

ひとひらの花びらがひらりと落ち、床に触れるぱたり、という音がやけに大きく響いた。

呼吸の気配さえ温室の中に吸い込まれていく。

換気ファンすら止まったかのような静寂。
温度センサーのランプがピコ、と一度だけ瞬く。

その場にいたのは怒れる新入社員研究員と、静まり返る戦略部長。

そして事の成り行きを見守る、数十のステラ・フローラたち。

(……云った! 云っちゃったぁ……!!)

肩で息をする葵。
心臓がドクンドクンと暴れる。

(始末書!? 顛末書!? それとも減給!? もも、もしかして……左遷、とか……っ!?)

一方で佐竹は微動だにせず、顔の筋肉すら動かない。

──沈黙、五秒。
──十秒。
──十五秒。

花粉センサーが「ピー」と鳴った瞬間、葵は反射的に肩を跳ねさせた。

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