暁に星の花を束ねて
「………」

その沈黙を最初に破ったのは、佐竹だった。

「まあ……おまえには、大声を出してその程度しか、反論できんだろうな」

くっと喉の奥で笑いながら、わざとらしく肩をすくめる。
空気が少しだけゆるむ。


(いま笑った!? 笑ったよね!?)


──温室の空気は、やっと溶け始めた。


「満点には程遠い。名前くらいは書けた、せいぜい、そんなところだな。……がんばれよ」

親指を立てて称賛のポーズをすると、片目を瞑ってみせる。

その挑発的な仕草に、葵の顔はさらに紅潮した。


(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!)


悔しさに歯噛みしながら耳まで真っ赤にしたその姿は、怒りというよりも拗ねた子どものようだった。

そしてそんな葵を見つめる佐竹の瞳は、どこまでも優しかった。

「このおれによく云った。褒美をやろう」

佐竹は憤慨する葵を尻目に端末を開くと、指を動かした。

「おまえの名前で開くようにしておいてやる……隙があったら見てもいいぞ。開くときがあればな」

「なにそれ!? 結局、見られないじゃないですか〜!!」

ステラ・フローラはそんな二人の様子を眺めている。

『人間って、不思議ね』

花たちは風のない温室で、そっと頷き合っていた。

ぷんすかする葵は、ふと鼻先をくすぐる匂いに気づいた。

(……またこの匂い……)

ほんのわずかに金属を含んだ甘い香り。

佐竹の袖口から、ごく微かに漂っていた。

葵は息を呑み胸の奥がざわつく。
けれど彼は、いつもの無表情のままだった。



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