暁に星の花を束ねて
終幕
理事会フロアを出たのは、午後三時を過ぎた頃だった。
曇天の光がガラス壁に滲み、廊下は薄い銀色の霧に包まれていた。
会議で費やした数時間がまるで数年にも思えるほど、空気は重く澱んでいた。
佐竹蓮は黒い手袋のまま、指先でネクタイをわずかに緩める。
その仕草ひとつにも、緊張の残滓が漂っていた。
片岡が隣を歩く。
資料端末を抱え、目線だけで彼の表情をうかがう。
「……部長、戦略部門から緊急通信です」
「内容は?」
「生命環境調和部門、星野葵研究員、所在不明。温室エリアの監視映像が二十三分前から途絶しています」
足が止まった。
わずかな沈黙。
空調の音すら遠のく。
「防犯ログは?」
「侵入記録、なし。アクセス権限は本人IDのみ。しかし温室周辺のナノセンサーが一斉に沈黙しました。まるで、最初から存在を消されたように」
黒手袋の拳が静かに鳴った。
それは怒りというより、理性の歯車が一気に回転しはじめた音だった。