暁に星の花を束ねて


その一言で、理事会は結論を出せなくなった。
議題は保留、票決延期。
議事録にはこう記されるだろう。


【CEO後継承認議案、審議継続。次回理事会にて再提出】


静寂が戻る。
壁時計の秒針の音がやけに大きく響く。
理事たちは書類を抱え、ゆっくりと席を立った。
靴音が重なり合い、まるで何かの葬送行進のようだった。

佐竹は最後まで席を立たず、黒手袋の手で端末を閉じると、小さく息を吐いた。

「……沈黙は、時に最大の盾になる。だが、長くはもたない」

片岡が隣で小声に問う。

「どうされますか、部長」

「動くさ。沈黙は守りにはなるが、支配者の都合のいい隠れ蓑でもある」

その横顔を見ていた朝倉楓は、ふと目を伏せた。

それは皮肉ではなく宣戦布告だった。
静寂の裏で、すでに駒は動き出していた。


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