暁に星の花を束ねて
懐かしい記憶から

白昼の誘い

理事会が行なわれているその時間──。

昼下がりの研究ブロック。
SHT・調和部門の第3ラボ。


アンチナリア・シード。
佐竹の血を吸ったステラ・フローラ。
そしてカオス・カリクスと呼ばれる、あの忌まわしい花。

葵はそれらの資料を改めて精査した。

培養記録、遺伝子配列、そして共鳴波形。
どのデータにも、ある共通の根が潜んでいた。

 ステラ・フローラ。

遺伝子検査の結果、いずれの花も、その原型がステラ・フローラであることが判明したのだ。

つまりアンチナリアも、カリクスも、佐竹の血を取り込んだ個体でさえも、すべては一つの源。

星野家が代々守ってきた花の異種であった。

だが最も肝心な事実は別にあった。

ステラ・フローラそのものは葵の手でしか咲かない。

他の誰が同じ条件で育てようとしても、花は異形へと変質し、別の種として姿を現す。

それはまるで、葵という存在こそがステラ・フローラの生存条件であるかのようだった。

顕微鏡の光が、瞳の奥に焼きついていた。

何時間、こうしてデータを追っていたのだろう。
指先は冷たく、思考だけが熱を帯びている。

(全部、繋がってる。ステラ・フローラが)

息を吐いた。
机の上の光が滲む。
疲労と、言葉にできないざわめきが胸の奥で混ざり合っていた。

カタリ。
端末の通知音がひとつ、静寂を裂いた。

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