暁に星の花を束ねて
思い出そうとする。
どうしてここにいるのか。

善一の墓に行ったことは覚えている。
あの日の空は、どこまでも澄んでいた。

目を閉じると、記憶の断片が鈍く痛む光となって脳裏をかすめた。

冷たい風だった。
頬を撫で、髪を揺らしたあの感触。

その直後、確かに背後に足音があった。
足音というよりも、空気そのものが裂けるような気配。

振り返ろうとした瞬間、鼻腔に甘い匂いが流れ込んだ。
花の香ではない。
薬品の人工的な香りがして──。

「……っ」

意識が遠のく直前、地面がゆがんで見えた。
風も、空も、ステラの花も、ひとつに溶け合うように。

そして次に目覚めた時、葵はこの装置の中にいた。

最後に見たのは、墓前に散るステラの花弁。
それが、血の色に変わって見えたことだけだった。

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