暁に星の花を束ねて
「これは実験です。普段、研究側にまわっているあなたが研究対象にされる。たまにはいいのではありませんか?」

モニターが切り替わる。
ガラスドームに包まれた一輪の花。

「カオス・カリクス……? じゃない。あれは……」

「カオス・カリクスの進化バージョン。カオス・カリクス・インフィニティと申しまして。この花でSHTと提携するはずでしたが、佐竹氏はお嫌いのようで」

淡々と、毒を滴らせるように言葉が続く。

「ですので、最後のプレゼンとして。あなたのモニターを彼に贈ろうと思います」

葵の顔から血の気が引いた。
暁烏の指が、静かに再生を押す。

「彼も云っていましたよ。死にゆく者たちを数えて悦に入るのは、いい趣味だと」

嘘だと云いたかった。
だが声が出ない。
心拍が上がり、データが波打つ。

暁烏は嬉しそうだ。

「あなたとのカオス・カリクス・インフィニティとのリンクは完成しました。無理に外そうとするなら、この因子が街中に飛ぶでしょう。……あなたのせいで、ね」

すべての言葉が、じわじわと彼女の理性を削り取っていく。

「くつろいで、星野研究員。このテスト結果を佐竹氏に知らせるのが楽しみだ」

暁烏が去り、部屋には再び沈黙が落ちた。

「……わたしの、せいだ……あんなメールに、ひっかかって……。ばかで……子供で……でも……」

頬を涙が伝う。

「でも……わたしがここにいれば、佐竹さんはもう、危険なことをしなくて済むよね……」

その言葉は、自分に言い聞かせるような呟きだった。

震える唇からこぼれた息はあまりにも弱く、誰にも届かない。

「ごめん……みんな……ステラ・フローラ……わたしがいなくても、ちゃんと咲くんだよ。調和のみんなは、優しいから……。いい子だね、ステラ……」

そのときだった。

調和部門温室のステラ・フローラが、ぽ、と淡く脈動した。まるで怒っているかのように。


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