暁に星の花を束ねて
同時刻──SHT本社・調和ラボ。
「馬渡統括、見てください! 星野研究員の花の様子が……!」
「花が怒っている?」
端末越しに馬渡遼が眉をひそめた。
モニターに映る培養槽では、ステラ・フローラの花弁が烈しく震え、白銀の光を脈打たせている。
波形データが跳ね上がり、制御系のアラートが赤く点滅した。
まるで誰かの心臓が、悲鳴を上げているようだった。
「こんな共鳴値、初めてです……感情伝導が、臨界を超えている……!」
ガラス越しに見える花弁は、声なき叫びを上げていた。
音ではない。
意識の震え。
全員が言葉を失う中、馬渡遼は静かに呟いた。
「……繋がっている。花の根は、どこまでも深い」
その瞬間、廃棄研究所。
葵の胸の奥に、確かな呼びかけが届いた。
(……いま、誰か……呼んだ……?)
耳の奥ではない。
もっと深く心の奥で、確かに響く声。
それは調和ラボに残してきたステラ・フローラ。
結衣たちと共に育てた、小さな命の声だった。
金属の床に落ちた涙が微かに光を弾いた。
葵はその光を見つめ、微笑みながら呟いた。
「……いい子だね、ステラ……。ちゃんと……届いたよ」
次の瞬間、拘束具を覆うナノ合金の表面に、
微細な亀裂が走った。
それは花と人を結ぶ、奇跡の共鳴だった。