暁に星の花を束ねて
葵の夢、初恋の男
その日の深夜、SHT女子寮の一室で。
なかなか寝付けなかった葵が小さく身を丸め、ようやくて眠りの世界へと訪れる。
夢の中で、十年前のあの光景を見ていた。
甘やかな花の香り──その中に血の匂いが混じっている。
そして何より鉄と薬品と、絶望の気配。
慌ただしい診療所とは別の静かな温室。
その温室の中に投げ込まれた男は治療を後回しにされ、放置されていた。
背中が大きく開いた傷、ナノ毒による身体内部からの破壊。
助からない─。
医師である父親の判断だった。
十二歳の葵が恐る恐る近づいたとき。
血の気を失ったはずの彼の目が、かすかに揺れて動いた。
そして次の瞬間、まっすぐに彼女を見た。
「!」
ビクッと身を震わせる葵。
しかし彼女の姿だけを確認すると、力を失ったように男は目を閉じた。
十二歳の彼女は走っていた。
呼吸は苦しく目は潤む。
しかし足を止めることはなかった。
見よう見まねの父親の治療。
父親がしているのを何度も見てきた。
背中の傷を不器用に縫い合わせる。
縫合用の器具を握った手は震え血が指先に沁み、涙と混ざってにじんでいく。
そして彼女が育てなければ咲かない花『ステラ・フローラ』の抽出液。
それを彼に投与した。
「死んじゃだめ……っ!」
青年はすでに意識もなく、血に濡れた黒髪が頬に張り付いていた。
見たこともないほど綺麗な顔。
しかしその美しさは、生きているという保証にはならなかった。