暁に星の花を束ねて
葵は膝の上で握った手を見つめた。
爪が皮膚に食い込むほど力を入れても、震えは止まらない。

「佐竹さん……」

絞り出した声は、泣き声にも似ていた。

その横顔。
声の低さ。
冷徹に見えて誰かを気遣う目。
何度も何度も、夢に見た記憶と重なった。


「佐竹さんが……お兄さんなんですよね?
十年前、ナノテロ事件で診療所に運ばれた、あのお兄さんなんですよね?」


彼の黒い瞳が、ゆっくりと彼女を見つめた。
言葉を選ぶように、静かに答える。

視線は逸らさない。
それは思い出そうとしている目ではなかった。

乾いた喉で息を飲む。


「アンチナリア・シードのことも……」


葵の視線が、自然と彼の黒手袋へと落ちる。


「生存者は一人だけ。その使用記録も全部、見たんです」


静かに目を伏せ、そしてもう一度、彼を見た。


「佐竹さんが十年前に診療所に運ばれてきた、あのお兄さんなんですよね?」

「……そうだと云ったら、どうする?」

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