暁に星の花を束ねて
その瞬間、葵は言葉を失った。

会いたかった。
訊きたかったことも山ほどあった。
けれどそのどれも、声にならなかった。

彼の背負ってきた時間の重さが、胸に迫ったからだ。


「ごめんなさい……。佐竹さんが苦しくなったのは、わたしのせいです。 玉華さんの目も……!
わたしの勝手な行動で危険な目に合わせてしまいました」


胸の奥に、ずしりと沈む重みがあった。

あの暗い廃棄施設で、玉華が目の前で視界を失った瞬間が、いつまでも脳裏に焼きついて離れない。
あの白く濁った光。

玉華が痛みをこらえながら微笑んだ姿。

あんなふうに笑われるほど、苦しかった。


「わたしがメールを確かめに行かなければ、玉華さんの目は……失われませんでした」


声が掠れ、喉の奥がぎゅっと締め付けられる。

彼女を守ろうとしてくれた人が傷ついた。
自分のせいで。
その事実が、何よりも耐えがたかった。

葵は涙をこぼすまいと唇を強く噛んだ。


「全部……わたしのせいなんです」


自分を責める気持ちを止められなかった。
葵を見つめ、佐竹は小さく首を振った。


「おまえのせいじゃない。玉華は自分の意思で動いた。あの時も、今も。そしておれもだ」


その声は静かで、胸を刺すほど真っ直ぐだった。

ふたりの視線が交わる。
十年の時が、静かに重なる。


< 168 / 197 >

この作品をシェア

pagetop