暁に星の花を束ねて

十年越しの答え



葵は唇を噛み顔を上げた。
黒い手袋で覆われた手を見つめる。


「研究して治してみせます。わたし……ステラの可能性を発見したんです。それを形にしてみせますから」


佐竹はふっと目を細め、苦笑に似た微笑を浮かべた。


「そうか。それは楽しみだ……と云いたいところだが、おれには時間がない」

「……!」


その顔には、否定できない気配だけが滲んでいた。


「もう中和剤も効かない。今まで持ってきたのが奇跡だ。おまえのステラ・フローラのおかげでな」


葵の胸が痛みで締め付けられる。


「死なせません! そんなこと、わたしがさせませんから!!」


佐竹は彼女をじっと見つめた。
黒い瞳の奥に、痛みでも諦めでもない別の光が揺れた。

「おまえは、どうしてそこまでおれに拘る?」

「それは……」

言葉は途中で途切れ、言葉を飲み込んだ。

迷惑をかけた身で「好き」や「初恋」などと、葵には口にできなかった。
そういう優しさと不器用さが、彼女の本質だった。

佐竹は葵の涙をそっと指で拭う。


「星野葵」


葵は驚いたように顔を上げた。
彼の瞳は迷いなく、真っ直ぐに彼女だけを映していた。


「こんな聞き方は卑怯だな。……おまえがくれた温もりで、おれはようやく気づいたんだ」


葵の胸が強く脈打つ。


「これだけは伝えておこう。おまえの感情は一方通行じゃない。おれも同じだ」

「え……?」


葵の胸が大きく揺れた。

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