暁に星の花を束ねて
静かなる戦略
記憶の花
翌日─
経営執行委員会室。
昼前のまだ朝の光が名残を留める時間。
その室内は重苦しい空気が支配していた。
窓の外では春の陽光がルミナリウム・ガーデンの白い温室を柔らかく照らしていたが、この部屋に射し込む光は、むしろ場違いなほどに冷たく見えた。
戦略部門への新入社員を迎えたあと、佐竹蓮は少名彦隼人CEOと向かい合っていた。
報告書のデータを読み終えた彼はタブレットを閉じ、薄く口元を歪める。
「そりゃあ、欲しいでしょうね……」
手の甲でタブレットを無造作にテーブルの上へと滑らせる。
スクリーンには未だ消えぬまま、紅蓮院宗牙が中和酵素の共同開発を提案し、その見返りにナノ毒市場の独占権を持ちかけた記録が残っていた。
「利権譲渡とは、ずいぶんと古臭い手をお使いで。よほど追い詰められているんでしょう」
少名彦隼人は佐竹を見る。
「……宗牙は、おまえにずいぶんとご執心のようだな」
溜め息混じりにそう言う隼人に、佐竹は涼しい顔で答える。
「私からは何もしていませんが」
にこりと口角だけで笑い、ふと視線をわずかに窓の外へ逸らす。
一拍の静寂がおきた。