暁に星の花を束ねて
「……それはさておき。問題は奴の執着により、この数週間で何が仕掛けられたかです」

佐竹は椅子に深く腰を沈め、タブレットに記されたデータを再び軽く弾く。

「ナノ毒の微細な痕跡が、我々の研究区域周辺から断続的に検出されています。即死させる類のものではない、もっと陰湿で回りくどいやり口です」

隼人は眉をひそめた。

「侵略は始まっているというわけか」

佐竹は静かに指先を組み直し、背もたれに深く身を預けた。
椅子がわずかに軋む音だけが重苦しい沈黙の中に響く。
そして、まるで些細な雑事でも片付けるかのように、タブレットを軽く弾いた。

「はい。もっとも連中は、火薬の代わりに毒を孕んだ花粉と、気付かぬうちに肺を蝕む風で戦争を仕掛けてきたわけですが」

ホログラムに映し出されたのはナノ毒素の分子構造と、それが人体に与える影響を解析した忌まわしいデータだった。

「細胞結合をじわじわと改変し、最終的には意志そのものに干渉するナノ構造毒。旧GQTがかつて実験段階で使用した、心理支配型ナノ毒素によく似ています」

佐竹は指先で画面を送る。
そこに並ぶのは、すでに中和不可能と判断された医療ナノ毒の記録だ。

「通常の医療技術では検知も中和も不可能。ですが、ある特定の遺伝子構成を持つ植物由来酵素なら、話は別です」

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