暁に星の花を束ねて
「おまえと話がしたかった」

「話……?」

「だが、何を話していいのかわからなかった。だから、鍵の話しをした」


佐竹はわずかに肩を揺らし、そっぽを向くように視線を逸らした。
耳のあたりが、ほんのり赤い。

葵は瞬きを繰り返し、その反応を見逃すまいと佐竹の横顔を迫った。


(そんな理由で……?)


次の瞬間──
胸の奥で、ぽっと気づきの光が灯る。

葵は悟った。

佐竹蓮という男は──
恐ろしいほどに、
そして愛おしいほどに不器用なのだ、と。


「佐竹さん……」


葵はじっと佐竹を見つめる。


「それって……怒ってたんじゃなくて……
困ってた、ってこと……ですよね?」


佐竹は無言だ。
だが視線が逸れた、その反応だけで十分すぎた。

誰もが恐れる戦略部長──。

数えきれぬ修羅場をくぐり抜け、企業の未来を幾度も救ってきた男。

その彼が今は、言葉を失ったまま視線を泳がせていた。

ほんのわずかに眉が困ったように下がる。

視線を伏せた頬が、目に見えて赤くなっていくのを、葵ははっきりと捉えてしまう。

正体を見抜かれてしまった少年のように。

彼はそれを誤魔化すように咳払いをひとつし、わざと無表情を装う。

だが耳の先まで染まった色だけは、どうしようもなく誠実だった。


「わぁ、図星だぁ」


葵の声が弾む。

佐竹は、わずかに眉をひそめながらも否定しない。


「……そういうところが困る」

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