暁に星の花を束ねて
「佐竹さんは、あんなに器用で、あんなに頼れるのに……それ以上に、すっごく不器用な男の人だったんですね」


そう云って近づいた葵の手が、そっと彼の胸元に触れた。
心臓の鼓動が、ふたりの間で重なる。

佐竹は、その手を優しく包み込みながら囁いた。


「おまえにだけは、全部見せてやる」


葵は頬を赤くしながらも、真っ直ぐに頷いた。


「はい。全部、みます……。
だって……わたしは、ずっと佐竹さんのことが大好きだったんです。これからもずっと大好きですよ」


少し間を置いて、葵はふっと息を吸い込む。


「……でも佐竹さんは、ひどいです」

「何がだ」

「わたしの初恋と今の気持ちを……ひとつに、してしまったんですから」

佐竹は一瞬、言葉を失った。


「……責任は取ろう」


低く告げられたその言葉に、
葵の胸がきゅっと鳴る。

佐竹の黒い瞳が柔らかく光り、
その手が葵の頬をさらりと撫でた。


「星野葵」


呼ばれただけで、胸が熱くなる。


「その言葉……おれが生きている間に聞けて、よかった」
「お別れなんてだめです。わたしが阻止します」


二人の距離は自然と近づき──。


夜明け前の光が差し込む病室で、
互いの温度を確かめるように静かに寄り添った。

その瞬間、世界はただ、ふたりのために息を潜めていた。



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