暁に星の花を束ねて
戦略の空白

不在という存在



SHT本社戦略統括本部 フロア前廊下


重い沈黙が、白い廊下を支配していた。

通常、戦略部門のこの時間帯は、情報端末のタッチ音や小声の打ち合わせで絶えずさざ波のように騒がしい。

だがこの日の午前、第五ブロックの自動扉が静かに開いた瞬間から、空気はまるで冷気に満たされたようだった。

先頭に立つのは、SHT社内司法部の副監査官だ。

無表情のまま、隣の補佐官が黒いホルダーから一枚の用紙を取り出し、ゆっくりと掲げる。


「第七条準緊急措置。戦略統括本部長佐竹蓮、拘束令状発動」


廊下を歩いていた数名の若手が立ち止まる。
誰かが書類の見出しを読み取り、小さく叫んだ。

「は……? 佐竹部長……を……?」

目を疑うのも無理はない。
SHT社内で最も冷徹かつ尊敬を集める男が、今まさに罪人として連行されようとしているのだから。

しかし、その中心にいた本人は、驚くほど落ち着いていた。

佐竹蓮は部長室からゆっくりと歩いてきた。
手錠も命令も必要としなかった。
まるで、すでに覚悟していたかのように。

監査官が文書を片岡一真に差し出す。

副制御室の端末を見ていた片岡は、その罪状を読んだ瞬間、顔を真っ青にした。

「……なんだ、これは……」

そこにはこう記されていた。




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