暁に星の花を束ねて


『《社内司法第七条準緊急監査令状》

・対象者:戦略統括本部長 佐竹 蓮
・罪状:
 一、高度機密保管規定違反
 二、倫理指針第六条違反(無認可治験の実行)
 三、CEO承認前技術の不正投入
 四、治験データ一部改竄の疑い
 五、部下保護義務違反(星野葵研究員に対する危険区域への非公式命令、および誘拐事件を誘発)
 六、作戦指揮権濫用(朧月玉華隊員への過重任務付与により視覚機能喪失の重大事故を発生)

・根拠:証拠ログNo.841C/映像証拠No.47-d/作戦記録改訂版
・命令発令者:CENTRAL EXECUTIVE/暫定指揮権限コード:CE-07』

 



片岡の手が震えた。

「こんなの……事実と違う! 曲解だ、根拠のない云いがかりだ!」

思わず叫んだ。
だが司法部の男たちは淡々としていた。

「当局は証拠に基づき、監査手続に入ります」
「本人も了承済みです。あとは形式的拘束となります」

「……了承……?」

振り返ると、佐竹が静かに片岡を見ていた。
その瞳には諦めも怒りもなく、ただ一つの意志だけが宿っていた。

「おれがいるとややこしくなる。だからしばらく、好きにやれ」

「……な、何を……」

「任せたぞ、片岡」

その一言を残し佐竹は自ら一歩、司法部の前へと進み出た。
歩調を乱さず、そのまま連行の列へと加わる。

「佐竹部長!?」

駆け寄ろうとする若手たち。
しかし職務上、誰も手を伸ばせない。

片岡は歯を食いしばる。



(なぜだ……! なぜ、大人しく従うんですか、部長!!)



部長は……探りに行ったのか?
それとも、これはたった一人で背負う覚悟か?


廊下の向こうへと消えていく背中。
誰も近づけない、孤独な戦略家の影。

そして、その姿が扉の向こうに沈んだ瞬間──

佐竹蓮は、二度と、社内のどこにも姿を現さなかった。

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