暁に星の花を束ねて


午後2時11分 SHT本社 戦略統括本部 副制御室。


副制御室には、機械音だけがかすかに響いていた。

人の気配はない。
だが端末の光だけが、薄暗い室内を青く染めている。

あの佐竹蓮が連行されてから、二時間が経過していた。

通常であれば、すでに査問室01に収容され、監査映像が秒単位でアーカイブされていて当然の時間だ。

被拘束者の身柄、健康状況、移動ログ。
すべては社内司法部が管理し、記録される。

それがSHTの絶対原則だ。

だが今、端末にはあり得ない表示が浮かんでいた。



《アクセス不能:該当IDは記録上存在しません》



「……は……?」



片岡一真は、反射的に何度も再読み込みを試みた。

だが画面は変わらない。

別回線
バックドア
戦略統括本部の上位権限ログ。


あらゆるルートで検索をかけても――
佐竹 蓮という存在が、どこにもない。


「どうなってるんだ……これじゃまるで……」


胸の奥で呼吸と心拍がかみ合わなくなる。

背後にいた数名の戦略部メンバーも、モニターを覗き込み、固まっていた。



「片岡課長……それ、どういう……ことなんですか……?」

「……」



片岡は言葉を失い、再び画面に目を戻した。

そこに並ぶのは、致命的な空白だった。



『・連行開始時刻:11:03
・査問室への移送記録:存在せず
・監視映像:午前11時12分以降 記録なし
・生命反応記録:該当データなし』



「……消されてる……?」



その言葉は、呪いのように副制御室に落ちた。

消された。
消された。
消された──。

誰かが椅子を蹴り、別の誰かが額を押さえて座り込む。

「部長は、社内にいるんですよね? 司法部の、どこかに……」

「わからない」

片岡は唇を噛みしめる。

この部屋からは、全施設の監視ラインにアクセスできる。
そのどこにもいないという事実は――

本当に、どこにも存在していないのと同じだった。

さらに追い打ちがくる。

社内チャットは既読にもならない。
内部回線は応答信号ゼロ。
位置情報ログは削除。
健康モニタリンクは無効化。
司法部へ問い合わせても「現在確認中」を繰り返すのみ。

まるで最初から、そんな人間はいなかったかのように。

(……冗談だろ……?)

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