暁に星の花を束ねて
片岡はふと、先ほどの違和感を思い出した。

副監査官という、あの男の動作。
タイムスタンプのズレ。
生体一致率。
未特定トンネル経由という異常経路。

片岡は素早く端末を操作し、監視ログを呼び出した。

「もう一度」

映し出されるのは、数時間前の第五ブロック。
自動扉の前に立つ司法部副監査官の姿。

今回は顔ではなく、時間に注目する。



《11:03:12 → 11:03:11 → 11:03:14》



わずか一秒。
だが、確実な揺らぎ。

「……ありえない……」

同時に、顔認証ログを並べる。



【副監査官:神崎 悟】
《生体一致率:92.3%》



98%以下は不一致。

つまり、あの男は正規ではない。



「……部長、あなたは気づいてたのか……?」



あの時の視線。
あの最後の言葉。

『任せたぞ、片岡』

背筋に冷たいものが流れる。



(最初から……おれに、この異常を追わせるつもりだった……)



そして午後三時。

全社端末に緊急通知が走った。





【佐竹蓮 戦略統括本部長に関し、監査中にて一時非公開といたします】
【なお、現時点で行動記録が一部未確認であり、調査継続中】
【社内職員各位は該当人物への直接接触、ならびにSNS等での言及を避けること】





「……監査中……?」

片岡は、ゆっくりとその文面を読み上げた。

監査の記録はどこにもない。
行動ログは削除されている。
非公開のはずの対象は、すでにどこにもいない。

……つまりこれは。

佐竹蓮は、社内の誰にも知られぬ場所へ消された。

副制御室に沈黙が落ちる。

そして、もうひとつの事実が片岡の胸を刺す。



「戦略部門は今、指揮権がない」



その一言に戦略室がざわめきが走る。



「全戦略権限は本来、部長の直轄だ。だが現在、それは宙に浮いている。 おれにあるのは維持権限だけだ。動員、展開、介入。その判断を下す権限はない」

「では……、佐竹部長を捜索できないということですか!?」



誰も返事をできない。

ただ、モニターの青い光だけが、静かに揺れていた。

片岡は、ゆっくりと顔を上げた。



「突破口はあるはずだ。それを見つけだす」



低く、かすれた声で呟いた。






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