暁に星の花を束ねて
隼人はその言葉に、ようやく真意を悟った。

密談で否定された話。
その真の意味が、いま氷解する。

「例の花か……」

「その通りです」

佐竹はナノファイバー製の黒手袋越しに静かに指を鳴らした。
わずかに響くその音が、重苦しい室内の空気を鋭く裂く。
ホログラムで流れるデータの中から、一つの不可解な通信記録を浮かび上がらせた。

「問題は、この動きに対する我々の正解が何かということです。証拠を求めれば、敵はすでに五手先を読んで消える。事実は水面下で泡のように弾け、真実だけが遅れて姿を現しますが……手遅れになります」

隼人は額に手を当て、小さく息を吐く。

「……佐竹。国際世論はこの件に過敏すぎる。証拠もなく動けば、こちらが加害者として吊し上げられるだけだ」

佐竹は薄く笑い、組んだ指先で卓上を軽く叩く。

「ご心配なく。世論なんてのは、たれ流しのホロ広告みたいなものです。映す壁がなければ、誰の記憶にも残りませんよ」

その声は冷静で、どこか突き放すような響きを帯びていた。

「連中が知りたいのは真実じゃない。納得できる話がほしいだけです。何しろ、それが成功すれば悪人が英雄になれるんですからね」

隼人はわずかに目を伏せる。

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