暁に星の花を束ねて
葵は唇を結び、呟いた。

「……わたし、そんな、こと……何も……」

聞いてない。

だがその瞬間、脳裏に記憶が蘇った。
彼がふとした口にした、あの言葉。





『褒美をやろう。パスワードを名前にしておいてやる』






(……!!)

 

 

『機会があれば見てもいいぞ。開く時があればな』




冗談めいた響きだった。


(まさか……)


掌が汗ばむ。
胸が痛むほど早く鼓動する。



「もしかしたら……!! ひとつだけ、あるかもしれません!!」


その言葉に、片岡が勢いよく顔を上げた。

葵は思いだしながら、片岡を見つめ口を開く。


「温室の端末なんですけど……佐竹さんが、わたしの名前をパスワードにしたって云ったんです。褒美だって」


片岡の瞳が一気に鋭く光った。


「星野さん、その端末……! 開きましょう!!」


葵は小さく息を呑み、二人は温室へと駆け出した。

< 180 / 197 >

この作品をシェア

pagetop