暁に星の花を束ねて
その瞬間、八重樫は思い返すように息を吐いた。


「星野さん。あなたの研究は、佐竹部長が命を賭けた前提の一部なの。今、折れたら……部長が一番望まない結果になってしまうわ」



葵は唇を震わせ、ゆっくりとうなずく。


「……はい」


彼女は再び席につき、器具を握り直した。

抽出温度の再設定
ステラ個体差の認識

ナノ毒分子の崩壊を抑えつつ、酵素閾値を上げる
そのための境界の一滴を、手探りで探る


(終わらせるもんか)


葵は試料の上に手を置き、祈るように目を閉じた。


(佐竹さんを必ず取り戻すんだ)


小さな声で、しかし確かな覚悟で。


「必ず佐竹さんを救えるものを、完成させます」


篠原も、八重樫も、シュロも顔を上げた。

彼女ひとりの決意が、部門全体の空気を変える。

調和部門は動き始めた。

戦場に行く者たちの背に、帰れる場所を作るために。


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