暁に星の花を束ねて
SHT本社最奥 戦略統括本部 戦略ブリーフィングルーム。
数分後、戦略部門の全員がそこに集められていた。
部屋には、いつもの報告音も雑談もなかった。
ただモニターの光と、息を詰めた人間の気配のみ。
片岡一真は中央卓に身を乗り出し、端末に映る座標群へ目を凝らす。
喉は乾き、指先だけが熱い。
(……ここか……?)
深紅の点が、一点だけ異質に輝いていた。
佐竹蓮が消えた空白の二十一分。
その間に残った唯一の座標。
座標演算モジュールが最有力と判断した地点。
「……旧都市縁の地下隔離域……?
廃線区画……GQTの廃施設!」
ブリーフィングルームにざわめきが走る。
「GQT廃施設……!?」
「あそこなら拘束も隠蔽も可能だ!」
誰が見てもあり得る。
だからこそ。
片岡の指先は、そこで止まった。
胸の奥に冷たい違和感が落ちる。
(わざとすぎる)
負荷値
暗号キー
電波減衰
を再分析する。
結果はあまりにも綺麗すぎた。
減衰値が均一
ログが鮮明
暗号キーが整いすぎている
何より見つけやすい
(……これは誘導だ)
GQTがよく使う疑似座標。
本命を隠すための餌。
その瞬間、胸の奥であの声が甦る。
『感情に呑まれるな。将棋と違って、戦略には敗者の命がかかる』
新人時代、誤報をかけたあの日。
佐竹蓮は責めず、ただ冷静に教えてくれた。
(焦るな……)
片岡は深呼吸し、演算を白紙に戻す。
ゼロから全ログを統合する。
連行経路は11時12分で断絶
司法部ログは途中から空白
地下深度で微弱な暗号信号
特定の5秒だけ異常パケット
負荷値ゼロのデータ断片
乱雑に見えた情報が、一本の軌跡を描き始める。
(……待て。この歪み……深度が異常に深い……?)
普通の廃施設ではあり得ない、地下300m級の深度値。
電波が届くはずもない層。
(ここは……)
片岡は震える声で呟く。
「……極東第七防衛圏……!!」
その言葉に室内がざわついた。