暁に星の花を束ねて
「それはずいぶんと強引な論理だな」

「はい。ですが、それが現実です」

佐竹は立ち上がり、窓辺へと歩み出た。
遠く霞むルミナリウム・ガーデン。
その白い温室は陽光にかすみ、まるで誰かの手によって今にも摘み取られそうな一輪の花のように儚い。

「このまま黙っていれば、GQTは我々の研究部門に資本を流し込み、倫理も規制もろとも飲み干すでしょう。口では人類のための技術革新、とでも謳いながらね」

「世界そのものを書き換えるつもりか」

「ええ。ただし、あの連中はひとつ忘れています」

佐竹はルミナリウム・ガーデンの方向を眺め付け加えた。

「花は、まだ手折られていない」

部屋に漂う空気は先ほどまでとは違う鋭さを帯び、佐竹の瞳は遠い先の光景を見据えるかのように、冷徹に光っていた。

その眼差しの視界の片隅に。

スーツの裾を翻しながら小走りに駆けていく女性の姿が映る。
肩下の黒髪が春の陽にきらめき、一瞬だけ振り返った横顔に見紛うはずもない面影があった。

彼の口元が、ごくわずかに弧を描く。

「……さて、CEO。毒にも花にも飽いた頃合いでしょう。ランチでもいかがです?」







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