暁に星の花を束ねて
灰の檻、刻まれた誓い

真夏の夢底



同じ頃。

極東第七防衛圏の暗闇で、佐竹蓮の意識は十年前の夏へと引きずり戻されていた。

十年前の夏。

SHT──スクナヒコナ・テクノロジーズ本社の旧開発棟で発生した『セクションD内部汚染事故』は、公式には「実験中の装置暴走による局所ナノ毒流出」と記録されている。

報告書の文面は冷徹にして簡潔だった。

余白を許さぬ数行の活字が、十数名の人間の命を不可抗力と名づけ、企業の記録から無感情に葬り去った。

だが。

その日その場所で何が起きたのかを知っていた者がいる。

そしてその口が語らぬ限り、真相は永遠に闇の底で沈黙し続けるはずだった。


そこは開発部門の一画にありながらすでに半ば忘れられた区画。


新棟への移行が進む中で、D区画に残されていたのは試験的施設という名目のもと、旧式設備とその維持に従事するわずかな人員。


言い換えれば管理の目が届きにくく、何かが起きるには都合のいい場所だった。


その朝の空気も穏やかだった。
表面上は何も異変はなかった。


ラボ主任はいつものようにAI記録装置にログインし、無感情なログラインを確認していた。


警備記録、エネルギー分配グラフ、圧力センサーの誤差。
どれもがいつも通りの機械が吐き出す退屈な日常の証だった。


ただ一つ引っかかる点があったとすれば、非常用気流制御装置が予定外の時間に稼働していたことだろう。


だが、主任は苦笑まじりに呟いただけだった。


「誰かがマニュアルを叩き間違えたんだろう」と。


主任が気流制御装置の異常に首をかしげたその日の朝、旧棟に関する内部報告書がひとつ、トップサイドの承認待ちのまま止まっていた。

承認者の名前は、SHTの中枢に座るただ一人。

その遅延は偶然か、意図か。

この時点では誰にも判断できなかった。


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