暁に星の花を束ねて
温室の外が騒がしくなった。

「おい、来たぞ!」
「急げ、早くしろ!」

声は慌ただしく、そして妙に押し殺されていた。

古びた自動ドアが軋んだ音を立てて開き、葵が扉の隙間から覗いたとき、そこには二人の男に抱えられた誰かの姿があった。

野戦帰りのような風体の二人組。

身なりはバラバラで、どこかで手配された便利屋か何かか。
少なくとも恩義を感じるような相手ではなさそうだった。


担ぎ込まれた男は血まみれだった。


黒い斑点と皮膚の裂け目が背に広がり、制服のジャケットは片袖が焼け焦げている。
男たちは担ぎ込むと投げ込むようにその身体から手を離し、ひとことの言葉もなく立ち去った。

すでに運び込まれた数人もいる。

「また勝手に置いていきやがったな」

善一は舌打ちをすると、即座に命令を飛ばす。

「ミナ、酸素! 血圧、脈拍、ナノスキャン、全データ取れ」

『承知しました』

応答したのは無機質な声。
診療所に配備された支援型アンドロイド、ミナだった。

淡いピンクの瞳が瞬時にスキャンを始め、次々に患者に酸素マスクを装着し左腕に点滴ラインを通す。

モニターが接続され数字が次々と表示されるが、その全てが赤く点滅していた。

『ナノ毒反応あり。致死濃度を超過。心拍不整、呼吸浅。末梢冷感進行中』

善一は顔をしかめ、胸部に手を当てると呼吸音を確認する。
モニター上の波形は徐々にフラットへと向かっていた。

「お父さん……」

葵が声をかける。

「……」

善一は何も答えない。
アンドロイドのミナが静かに告げる。

『最終処置の承認を申請しますか?』
「……いや」

善一は唇を噛んだ。

「酸素だけ入れておけ。次を回る」

手は止まった。
技術的にも薬理的にも、次の一手がなかったのだ。 

あきらめたのだ。
ミナを伴い温室を出てゆく。

葵がもう一度、男に顔を向けると。
男がこちらを見た。

「!!」

ビクッと身を強張らせる葵。
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