暁に星の花を束ねて
「他の者、は……?」


自分の声が自分のものに聞こえない。
それでも問いかけた。
思わず、ではなく確認せずにはいられなかったのだ。

医者は一瞬だけ視線を逸らしてから答えた。



「……助かったのは、おまえさんだけだ」



声は淡々としていたが、その下に沈んでいるものは重かった。
誰も彼の命が助かるとは思っていなかった。
予定通り死んでいたはずだった……自分だけが、生き残ってしまった。

佐竹は力の入らない手で拳を握る。

「……あれは」

佐竹は吐息とともに、呟く。
背中に鈍い痛みが走る。

「カオス・カリクス因子……そう云いたいんだろう?」

星野善一は低く応じた。
声には皮肉と憤り、そして静かな怒りが含まれている。


「何人も解剖してきたよ。ナノ毒の中でも、あれは最も陰湿だ。細胞膜を溶かすだけじゃない。静かに神経の記憶までも分解していく。人が人であるための輪郭を、内側からぼやかすんだ」


佐竹はようやく彼の顔を正面から見た。

「花、が……」

「ああ」

善一は、温室の奥を指さした。

そこには白い、小さな花。
か細い茎。
なのにどこか強い意志のようなものが宿っていた。

ステラ・フローラ。

その根元が、淡く脈を打つように光っている。

「未認可だが、ナノ因子への中和反応を示している。ただし……」

善一は息をつき、わずかに声を低めた。


「……おまえさんは助かったが、完璧な治療薬じゃない。それは確かだ。症状を抑えただけにすぎない。毒の根は、体内のどこかに燻っている」


その声音は静かだったが、医師としての冷徹な現実を否応なく突きつける響きがあった。

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