暁に星の花を束ねて
「使えば痕跡は残る。誰かに知られることになる。
だから、正式な医療ラインには乗せていない」

佐竹はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと問いかけた。


「……提供しない理由は……?」


その声には責める意図はなかった。
単に義務感のようなものが滲んでいた。

善一は軽く笑う。


「おいおい。そんな目にあって、まだ企業の論理で考えるのか。……よく躾けられているな、ほんとに」


カルテを閉じ背もたれに身を預ける。
ふと目を細めたその横顔は、静かだった。


「この花はな、娘の手でしか咲かないんだ。以前は母親が育てていた。娘を産んで命を落とした女さ」


佐竹は沈黙した。
善一の目は少女を見ていなかった。
遠い過去を見ていた。

善一は一瞬、言葉を選ぶように視線を落とす。


「爆発に巻き込まれたと聞いてた。だから火傷か裂傷だろうと思っていたんだが……」


視線が、ゆっくりと佐竹の背へと向けられる。

静かな温室の空気の中で、善一はさらに小さく息を吐いた。


「……背中のそれ。刃物の傷だ。毒で瀕死のおまえさんを切った奴がいた、ということだな……恐ろしい」


温度のない声だった。
しかし、その一言には、医師が見てきた数多の現実が沈んでいた。

佐竹は天井を見つめたまま、沈黙した。
背中に、鈍い熱が走る。

善一は続ける。


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