暁に星の花を束ねて

調和部門と戦略部門

時は遡り、佐竹が経営執行室で隼人との会談をしている時間。

葵の初出社後、彼女は正式に持ち場を告げられた。

『技術本部生命環境調和部門――Bio-Environmental Harmony Division(通称BEH)』。

ナノ汚染対策、環境修復、生体調和技術の開発を担う部門である。
彼女はその一角に、新入研究員として配属されることになった。

入社式前に提出した寸法通りの白衣が手渡される。

袖を通すと、それは驚くほど彼女の背丈にぴたりと沿い、左胸にはBEHのシンボルである『青い一輪花』が静かに咲いていた。

総勢一八〇名。
そのうち研究員一四〇名、技術補佐・管理職四〇名。

研究員の半数以上は植物生理学、分子生物学、バイオナノ工学の専門家。
女性比率は四割とやや高く、植物を扱う部門らしく感性豊かな発想が重んじられている。

だが。
その華やかさの裏には、見えない圧力が常にのしかかっていた。

『調和こそ未来への道標』

部門の掲げる理想は美しく、崇高ですらある。

しかし現実には戦略部門からの対ナノテク防衛技術開発要請が、容赦なくこの理想を侵食していた。

まるで柔らかな花弁に鋼鉄の靴音が無遠慮に踏み込むかのように。

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