暁に星の花を束ねて
その世界の中で自分に何ができるのか。

葵は不安を押し隠しながら白衣の裾を握りしめた。

部門長挨拶、セレモニーを終え、新入研究員たちはひとりずつ前に出て自己紹介を行う運びとなった。

彼女は静かに一礼すると、少し緊張した面持ちで口を開く。

「星野葵と申します。植物の研究に関心があり、調和部門に志願しました。十年前のナノテロの際、父の温室に運ばれてきた方に、私が育てていた花が使われたことがきっかけです。小さな命でも、誰かを救えると信じています。どうぞよろしくお願いします」

その声に奇をてらった誇張も自慢もなかった。
ただまっすぐに、胸の内を言葉にしただけである。

『旧開発棟セクションDナノテロ事件』。

それは十年前、SHT本社内の旧研究施設の一画を標的に仕掛けられた、生物兵器型ナノ毒の散布事件のことだ。

開発中の技術情報を狙った火之迦具土シンジケート系の工作とされるが、詳細はいまだ機密扱いのままである。

十数名が重症、複数が死亡し、唯一の生還者は非公式温室に一時避難させられた人物で、そこに咲いていたのが葵が育てていた花である。


そう葵のたまに見る夢。
今でも思い出す現実の出来事。


拍手が静かに広がる中、彼女はほっとしたように席に戻り、静かに息をつく。

その指先はほんの少し震えていたが、背筋だけは真っすぐに伸びていた。

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