暁に星の花を束ねて
「特別投与?」
「……あの、それは……!!」
葵は再び真っ赤になり、口をぱくぱくさせた。
医師はカルテを確認しながら、淡々と説明する。
「ええ。星野研究員が提案した方法です。
ステラ・フローラの抽出液は希少で不安定ですからね。
微量を失活させず体内へ届けるには、粘膜吸収が最も効果的だと」
佐竹の瞳が鋭く細まる。
「……粘膜吸収?」
医師は簡潔に云い換えた。
「平たく云えば──口移しです」
「──」
葵の頬から、見る間に湯気が立ちのぼる勢いで赤くなる。
「せ、先生!! も、もっとこう……ぼかすとか!!」
「事実ですので。
もちろん、動物段階までは安全性が確認されています。
ただし人への投与は今回が初めてでした。
緊急時の人道的投与として、星野研究員が判断されたのです」
「っ〜〜〜〜〜〜!!!」
医師は特に気にする様子もなくカルテを閉じた。
「この方法でなければ、佐竹さんは助からなかったでしょう。
星野研究員の処置は医学的にも極めて適切でしたよ」
佐竹の声が確認するように低く落ちる。
「……星野葵が、口移しで?」
「はい。
呼吸停止寸前で反応が弱かったためです。
佐竹さんが病院に運ばれてからも、ずっとその方法で投薬していました」
葵は両手で顔を覆い、涙目のまま震える。
「ち、ちが……違わないけど……違うんです!!」
「ほう。ずっと、ね……」
掠れた声の佐竹。
「き、緊急だったからで……! ステラ抽出液が安定しなくて、他に方法がなくて……!
べ、べつにその……そういう意味じゃなくて……っ」
医師は静かに頷く。
「緊急でしたからね。
しかし大変勇敢な判断でしたよ、星野研究員」
「せ、先生……もうやめてください……恥ずかしくて……死んじゃいます……」
看護師が小声で笑いを堪えつつ囁く。
「大丈夫ですよ。医療行為ですから」
「こんな医療行為、訊いたことないですぅ……!!!」
横で状況を見ていた担当医が、微かに咳払いをした。
「……星野さん。佐竹さんの意識は安定しています。あとは、ゆっくり……落ち着いてお話しされるといいでしょう」
そう云うなり、医師は看護師と目を合わせ、小さくうなずき合う。
「では、しばらくお二人にお任せします。何かあれば呼んでください。……佐竹さんのこと、会社の方にはご連絡しておきますね」
看護師もにこやかに会釈した。
「失礼しますね。ふたりとも、お大事に」
その言葉を残し、そっとドアを閉めていく。
静かに扉が閉まる音が響き、
病室は再び、ふたりだけの空気に満たされた。
そんなやり取りを聞きながら、佐竹は葵をじっと見つめ、ゆっくりと息を吸った。
葵は両手で真っ赤な顔を覆っている。
佐竹は上体をわずかに起こし、静かに告げた。
「……あの、それは……!!」
葵は再び真っ赤になり、口をぱくぱくさせた。
医師はカルテを確認しながら、淡々と説明する。
「ええ。星野研究員が提案した方法です。
ステラ・フローラの抽出液は希少で不安定ですからね。
微量を失活させず体内へ届けるには、粘膜吸収が最も効果的だと」
佐竹の瞳が鋭く細まる。
「……粘膜吸収?」
医師は簡潔に云い換えた。
「平たく云えば──口移しです」
「──」
葵の頬から、見る間に湯気が立ちのぼる勢いで赤くなる。
「せ、先生!! も、もっとこう……ぼかすとか!!」
「事実ですので。
もちろん、動物段階までは安全性が確認されています。
ただし人への投与は今回が初めてでした。
緊急時の人道的投与として、星野研究員が判断されたのです」
「っ〜〜〜〜〜〜!!!」
医師は特に気にする様子もなくカルテを閉じた。
「この方法でなければ、佐竹さんは助からなかったでしょう。
星野研究員の処置は医学的にも極めて適切でしたよ」
佐竹の声が確認するように低く落ちる。
「……星野葵が、口移しで?」
「はい。
呼吸停止寸前で反応が弱かったためです。
佐竹さんが病院に運ばれてからも、ずっとその方法で投薬していました」
葵は両手で顔を覆い、涙目のまま震える。
「ち、ちが……違わないけど……違うんです!!」
「ほう。ずっと、ね……」
掠れた声の佐竹。
「き、緊急だったからで……! ステラ抽出液が安定しなくて、他に方法がなくて……!
べ、べつにその……そういう意味じゃなくて……っ」
医師は静かに頷く。
「緊急でしたからね。
しかし大変勇敢な判断でしたよ、星野研究員」
「せ、先生……もうやめてください……恥ずかしくて……死んじゃいます……」
看護師が小声で笑いを堪えつつ囁く。
「大丈夫ですよ。医療行為ですから」
「こんな医療行為、訊いたことないですぅ……!!!」
横で状況を見ていた担当医が、微かに咳払いをした。
「……星野さん。佐竹さんの意識は安定しています。あとは、ゆっくり……落ち着いてお話しされるといいでしょう」
そう云うなり、医師は看護師と目を合わせ、小さくうなずき合う。
「では、しばらくお二人にお任せします。何かあれば呼んでください。……佐竹さんのこと、会社の方にはご連絡しておきますね」
看護師もにこやかに会釈した。
「失礼しますね。ふたりとも、お大事に」
その言葉を残し、そっとドアを閉めていく。
静かに扉が閉まる音が響き、
病室は再び、ふたりだけの空気に満たされた。
そんなやり取りを聞きながら、佐竹は葵をじっと見つめ、ゆっくりと息を吸った。
葵は両手で真っ赤な顔を覆っている。
佐竹は上体をわずかに起こし、静かに告げた。