暁に星の花を束ねて

現実の崩壊

端末が震えた。

葵が急いで応答すると、片岡の顔が映り、背後で戦略棟がざわついている。


『星野さん!? 病院から連絡があって! 佐竹部長が目覚められたとか……!
佐竹部長!! ご回復を!! よかった……!』


佐竹の姿を確認した、その声に合わせて画面の奥で

「うおおっ!!」

と歓声が上がる。

佐竹はかすかに目を細め、低く云った。


「おまえたちのおかげだ。……心配をかけたな」

『いえ……! おれたちは教えを守っただけです!』

まだ呼吸は浅い。
それでも佐竹は端末へと視線を向けた。


「片岡。報告を」


片岡の表情が変わる。
佐竹が軽く息を整え、ベッドの柵に手を添えて身を起こそうとしたその瞬間だった。


「ま、待ってください!!」


葵が慌てて支えるように両腕を伸ばした。


「佐竹さんは、まだお仕事できる状態じゃないんです!」


点滴の管がかすかに揺れ、包帯の巻かれた腕が光を反射する。
その姿は、誰が見ても重傷者そのものだった。
昏睡から目覚めたばかりなのだから当然だろう。

佐竹はそんな葵の震える手を一度見つめ、静かに首を振る。


「大丈夫だ」
「だめです!」


言葉を噛みしめ、葵の声が震えた。
そこへ画面の向こうから片岡がかぶせるように声を上げる。


『部長。血中ナノ毒値もまだ安定していないはずです。
医療班も最低でもあと二日は絶対安静と……』


普段、冷静な片岡の声がここまで強まるのは珍しかった。


「……みんなも、心配しているんですよ?」


葵は泣きそうな顔で訴えた。

佐竹は一瞬だけ、ほんの短く目を伏せる。

ゆっくりと呼吸を整えたあと──
弱った身体を押して起き上がる理由を、低く、しかし確かな声で告げた。


「……五日だ。五日も眠っていた。
世界は待ってくれん。
沈む企業も、迷っている社員も──誰かが支えねばならない。
続けろ」


佐竹の言葉に考え込んだ片岡だったが、報告を続ける。


『了解しました。……まず、凛翔ですが。
公安に拘束されました。
CEOの息子がライバル企業と共謀し、戦略本部長を襲撃した。
この件はすでに大スキャンダルとして報道されています』


葵は思わず端末を握りしめる。


『SHTの株価も急落しています。
組織ぐるみの隠蔽との批判が噴出し……
世論も株主も、きわめて厳しい状態です』


佐竹は短く目を閉じ、報告を訊いている。
片岡が続けた。


『そしてGQT。
紅蓮院宗牙が、資金を持って逃走しました』


佐竹の眉がわずかに動く。


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