暁に星の花を束ねて

父と子

公安留置施設・面会室

無機質な壁。
防弾ガラス越しに向き合う二つの椅子。

少名彦凛翔は、すでにCEOの息子ではなかった。
簡易拘束衣に身を包み手首には抑制バンド。
あれほど自信に満ちていた背筋は、どこか歪んでいる。

その向かいに座るのは少名彦隼人。

かつてスクナヒコナ・テクノロジーズを率いた男。
今日、彼はただの「父親」という立場でここにいるはずだった。

だが。

隼人は息子を見ることができなかった。
正確には……見ようとしなかった。

凛翔は、無意識に父の反応を待つような表情を浮かべている。


「……父さん」

沈黙を破ったのは、息子だった。

「ニュース、見たよ。
全部……佐竹のせいだって、世間は云ってる。
父さんなら、わかるよね?
あいつがどれだけ危険な男か──」

隼人は、ゆっくりと瞬きをした。

それは思考の時間ではない。
感情を切り離すための癖だった。

「凛翔」

低い声。
感情の温度が、ほとんどない。

「おまえは、佐竹蓮を排除すべき障害だと判断した。
違うか」

「……企業を守るためだ!」

凛翔の声が跳ねる。

「父さんだって、同じだっただろ!?
佐竹を危険視してた!
だから──だから、おれは……!」

隼人は、ようやく視線を上げ、
ガラス越しに凛翔を見た。

だがそこにあったのは慈愛ではない。
親が子を見る目でもなかった。

評価だ。


「失敗したな」

短く、切るように。

凛翔の呼吸が止まる。
胸の奥で、何かが落ちる音がした。


「計画は粗雑。
公安も、理事会も、世論も、甘く見すぎた」

「……それだけ?」


凛翔は震える声で笑おうとした。

「父さんは……おれが捕まっても、そんなことしか云わないのか?」

隼人は、静かに首を横に振った。

「違う」

隼人は、わずかに間を置いた。

「それ以上に、おまえは越えてはならない線を越えた」

< 220 / 249 >

この作品をシェア

pagetop