暁に星の花を束ねて
落日の理事会
スクナヒコナ・テクノロジーズ
本社 理事会フロア。
外は冬の雨が降り出していた。
ガラス張りの上層階に雨粒が叩きつけられ、そのたびに光が歪む。
社員たちのざわめきが、耳の奥に残る。
「CEOの息子が逮捕……」
「隼人CEOはどうなる……?」
「会社は、一体どこへ向かうのか」
戦略部門、調和部門、研究部門。
それぞれのフロアが、嵐を飲み込んだように騒然としていた。
だが、最も深い嵐は理事会室の扉の向こうで渦巻いていた。
理事会室。
艶のない黒のテーブルが長く伸びている。
そこに並ぶ十数名の理事は皆、硬い表情をしていた。
中央席には、まだ現CEOの肩書きを持つ男──
少名彦隼人が座っている。
だが、その姿にはもはや威厳はない。
肩に落ちた影が、彼自身の終焉を告げていた。
議長が静かに開会を告げた。
「……それでは、本日の議題を始めます」
壁面スクリーンに、凛翔の拘束映像と事件の概要が映し出される。
・戦略本部長・佐竹蓮への襲撃
・GQTとの裏取引
・企業資産と権限の不正使用
・世界市場への深刻な混乱
明滅する証拠が、無機質に隼人の罪を照らす。
「まず。CEO少名彦隼人氏の責任について」
議長の声が、刃のように落ちた。
理事の一人が資料を叩く。
「少名彦隼人CEO。
あなたの息子による凶行は、個人の暴走とは到底片づけられない」
別の理事が重ねる。
「社内システムに息子がアクセスできた理由、GQTとの水面下の接触、そして、危機管理の不備」
「……説明を求めます」
隼人は、長い沈黙ののち、低く口を開いた。
「……すべて、私の責任だ」
ざわめきが走る。
「凛翔に権限を与えたのは私だ。
あの子の野心を、才能と誤解した。
……謝罪する」
深々と頭を下げる隼人。
だが、それはもはや取り返せぬ落日の姿だった。
議長が告げる。
「退任動議に入ります」
電子パネルに手が触れられ、
次々と票が灯る。
承認──承認──承認。
反対票は、一つもなかった。
「……可決」
静かな宣告が、理事会室を満たした。
少名彦隼人は、今日をもってCEOを解任される。
隼人は立ち上がり、深く一礼した。
その背中から、かつての覇気は完全に消えていた。
扉が閉じる。
スクナヒコナ・テクノロジーズの時代が、一つ終わった。