暁に星の花を束ねて
議長が最終票決を開始する。

緊張が空気を縛る。






承認、承認、承認。





やがてスクリーン全体が緑に染まった。

「……可決」

議長がゆっくりと宣言する。


「新CEOは、スクナヒコナ・テクノロジーズ戦略統括本部長 佐竹蓮」


拍手は起きなかった。
起こせなかった。

全員が、その瞬間の重さを理解していた。
企業の命運を預ける男がいま、この椅子に座っていることを。

葵は、別室でその姿を見つめて胸が熱くなる。

佐竹は議長に一礼し、

「引き受けます」

静かに云ったその言葉は、沈みかけた巨大企業を引き上げる宣誓だった。

黒いテーブルの上で、雨に歪んだ都市の光が揺れている。

議長は、一拍置いてから続けた。


「……続いて、戦略部門統括体制について確認します」


理事たちの視線が、再び卓上に集まる。


「新CEO就任に伴い、戦略統括本部長の職は空席となります。
この非常事態下において、戦略部門の空白は許されない」


一人の理事が静かに補足した。


「現在の混乱は、情報戦・市場戦・対外調整が同時進行しています。
現場を即時に束ねられる人物が必要だ」


議長が頷く。


「そこで理事会は──戦略部門分析課長、片岡一真を、新・戦略統括本部長に正式任命する案を提示します」


一瞬、理事会室の空気が動いた。

若すぎる、という言葉は誰の喉にも浮かんだ。
だが、それを口にする者はいなかった。

別の理事が端末を確認しながら口を開く。


「なお。佐竹部長による戦略部長権限の仮譲渡通知は、すでに理事会宛にも届いています」


視線が、佐竹へと集まる。


「内容は暗号化されていましたが、本人確認および発信時刻は事件発生前。
緊急時に備えた、事前の権限移譲と判断されます」


静まりかえる会議室。

それは偶然ではない。
佐竹が、倒れる可能性を織り込んだ上で組んだ布石だった。

片岡は席を立ち、深く一礼した。

「……身に余る大任ですが、佐竹CEOの判断を補佐し、戦略部門を最後まで機能させることをお約束します」

声は震えていなかった。

佐竹は片岡に視線を向ける。

短く、しかし確かに、頷いた。

それだけで十分だった。

議長が告げる。


「戦略統括本部長・片岡一真の就任について、
異議はありますか」


誰も手を挙げなかった。

「……承認」

この瞬間。
スクナヒコナ・テクノロジーズの中枢は、個人ではなく布陣として再起動した。

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