暁に星の花を束ねて
その短い言葉に、葵は一瞬、言葉を失う。

廊下の先。
あのガラス張りの部屋。
ついさっきまで、過去の男が座っていた場所。

佐竹は、何も振り返らず、ただ前を見て進んでいく。

その背中を見つめながら、
葵の胸に、別の感情が、遅れて湧き上がった。

――この人は。
いつの間に、ここまで先へ行ってしまったのだろう。

計算だったのか、という問いは、
さっき、口に出して確かめた。

だが、今胸にあるのは、
答えを知りたい気持ちではなかった。

追いつけていると思っていた。
同じ場所に立っているつもりでいた。

しかし。

あの迷いのない歩き方。
責任の中心へ、ひとりで踏み込んでいく背中。

(……佐竹さん)

佐竹は前を向いたまま進んでいる。

逃げ場のない場所へ。
責任の中心へ。

葵は、その背中から目を離さず、
胸の奥で、そっと言葉を選んだ。

――あなたの眼差しを、
変えることはできないかもしれない。

あなたが見ている景色も、
背負っている重さも、
わたしには、きっと同じには見えない。

でも。

(……一緒に見ても、いいですよね)

同じ方向を向いて。
同じ場所に立てなくても。

隣で。

だがその中心で、新しい時代は、
静かに、確かに、動き始めていた。



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